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夏目 漱石

夢十夜 第二夜

読み手:吉江 美也子(2010年)

夢十夜 第二夜

著者:夏目 漱石 読み手:吉江 美也子 時間:6分37秒

 こんな夢を見た。
 和尚の室を退がって、廊下伝いに自分の部屋へ帰ると行灯がぼんやり点っている。片膝を座布団の上に突いて、灯心を掻き立てた時、花のような丁子がぱたりと朱塗の台に落ちた。同時に部屋がぱっと明かるくなった。
 襖の画は蕪村の筆である。黒い柳を濃く薄く、遠近とかいて、寒むそうな漁夫が笠を傾けて土手の上を通る。床には海中文殊の軸が懸っている。焚き残した線香が暗い方でいまだに臭っている・・・

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