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牧野 富太郎

火の玉を見たこと

読み手:福井 一恵(2011年)

火の玉を見たこと

著者:牧野 富太郎 読み手:福井 一恵 時間:5分16秒

 時は、明治十五、六年頃、私はまだ二十一、二才頃のときであったろうと思っているが、その時分にときどき、高知(土佐)から七里ほどの夜道を踏んで西方の郷里、佐川町へ帰ったことがあった。
 かく夜中に歩いて帰ることは当時すこぶる興味を覚えていたので、ときどきこれを実行した。すなわちある時はひとり、またある時は二人、三人といっしょであった。
 ある夏に、例のとおりひとりで高知から佐川に向かった。郷里からさほど遠くない加茂村のうちの字、長竹という在所に国道があって、そこが南向けに通じていた・・・

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