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片山 廣子

お嬢さん

読み手:アン荻野(2024年)

お嬢さん

著者:片山 廣子 読み手:アン荻野 時間:6分

 花の里、吉原にその青年は初めて行つたのである。それから十日位すぎて私にその夜のてんまつを聞かしてくれた。彼と私とは年齢の差を越えての友達だつた。青年は古い紳士の家に生れて上品で神経質だつたが、同時に人のおもひもかけない突飛な真似もする人で、その吉原行きも、小説でも書きたい願ひを持つてゐるのだから、世間のうら街道も時々は歩いてみなければと思ひついた結果らしかつた。さてさういふ場所もどうせ行くなら一ばんとびきり上等の店へ行つてみたいと思つて行つたのださうで、たいへん古い立派な店であつたらしい。そこでやり手のをばさんに自分が初めて来た話をすると、彼女は、それではすつかりおまかせ下さい、・・・

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