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田中 貢太郎

雪女

読み手:齋藤 こまり(2024年)

雪女

著者:田中 貢太郎 読み手:齋藤 こまり 時間:9分38秒

 多摩川縁になった調布の在に、巳之吉という若い木樵がいた。その巳之吉は、毎日木樵頭の茂作に伴れられて、多摩川の渡船を渡り、二里ばかり離れた森へ仕事に通っていた。
 ある冬の日のことだった。平生のように二人で森の中へ往って仕事をしていると、俄に雪が降りだして、それが大吹雪になった。二人はしかたなしに仕事を止めて帰って来たが、渡頭へ来てみると、渡船はもう止まって、船は向う岸へつないであった。
 二人はどうにもならないので、河原の船頭小屋へ入った。船頭小屋には火もなく、二畳ほどの板敷があるばかりであった。
 二人はその板敷の上へ蓑を着て横になったが、昼間の疲れがあるのですぐ眠ってしまった・・・

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