山川 方夫 作
読み手:西村 文江(2026年)
夫が受話器を置いたとき、彼女は腕時計を見た。
「ちょうど三十分間ね、今年も」
元旦の昼ちかい光が、ガラス戸ごしに部屋に流れている。夫は、しばらくは口をきかなかった。
「恒例の、新年のご挨拶ね?」
「うん。……あいつさ」
「今年はどんな話だったの?」
「子供が、学校に上るってさ。……だけど、それがいったい俺とどんな関係があるっていうんだ? 毎年、判で押したように元旦の朝、この電話だ。勝手に自分のことばかりペラペラしゃべりまくりやがる。……迷惑だよ」
「あら、けっこう楽しそうな顔してたわ」
「冗談じゃない。こうしつっこいと、ウンザリして、だんだん怖くなってきちゃう。たぶん、相手はまともな精神の持主じゃないよ。たった一回、いっしょに映画を見てお茶を飲んだ、それだけのことで、こんなに……」・・・
© & ℗ 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.
Unauthorized duplication and distribution are strictly prohibited.
(掲載の音声、文章、デザイン等の無断転載・公衆送信を禁じます)