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小津 安二郎

丸之内点景
・・・・東京の盛り場を巡る・・・・

読み手:宮澤 賢吉(2019年)

丸之内点景 ・・・・東京の盛り場を巡る・・・・

著者:小津 安二郎 読み手:宮澤 賢吉 時間:5分42秒

 春の夜である。
 今、活動がハネたばかりで、人浪は、帝劇から丸之内の一角を通つて、銀座につゞく。
「一寸、つき合へよ、アロハ・オエを一枚買つて行くんだ」
 三人連れの海軍青年士官の会話(スポークン・タイトル)。
    ▽
 春の夜の、コンクリートの建物の並んだ、丸之内の裏通りのごみ箱一つ見えない、アスフアルトの往来に、ふと、野菜サラダのにほひを感じたと芥川龍之介は書いてゐる。
 この通りには、ところどころに西洋料理店はあるし、大方は、地下室が、料理場になつてゐて、ほ道とすれ/\に通風窓があるから、野菜サラダだらうが、かきフライであらうが、鼻が悪くない限りごみ箱を連想し、その所在を気にせずとも、それより遙に新鮮なにほひを感じるのは当然である・・・

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