閉じる

閉じる

夏目 漱石

夢十夜 第八夜

読み手:みきさん(2020年)

夢十夜 第八夜

著者:夏目 漱石 読み手:みきさん 時間:8分35秒

 床屋の敷居を跨いだら、白い着物を着てかたまっていた三四人が、一度にいらっしゃいと云った。
 真中に立って見廻すと、四角な部屋である。窓が二方に開いて、残る二方に鏡が懸っている。鏡の数を勘定したら六つあった。
 自分はその一つの前へ来て腰をおろした。すると御尻がぶくりと云った。よほど坐り心地が好くできた椅子である。鏡には自分の顔が立派に映った。顔の後には窓が見えた。それから帳場格子が斜に見えた。格子の中には人がいなかった。窓の外を通る往来の人の腰から上がよく見えた・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.