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山本 周五郎

泥棒と若殿

読み手:大栗 幸子(2021年)

泥棒と若殿

著者:山本 周五郎 読み手:大栗 幸子 時間:1時間10分9秒

   一

 その物音は初め広縁のあたりから聞えた。縁側の板がぎしっとかなり高く鳴ったのである、成信は本能的に枕許の刀へ手をのばした、しかし指が鞘に触れると、いまさらなんだという気持になって手をひっこめた。
 ――もうたくさんだ、どうにでも好きなようにするがいい、飽き飽きした。
 こう思いながら、仰向きに寝たまま腹の上で手を組み合せた。右がわの壁に切ってある高窓の戸の隙間から、月の光が青白い細布を曳いたように三条ながれこんでいる。ついさっきまで夜具の裾のほうにあったのが、今はずっと短かくなって、破れ畳の中ほどまでを染めているにすぎない、するともう三時ころなのだなと思った・・・

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