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新美 南吉

和太郎さんと牛

読み手:入江 安希子(2022年)

和太郎さんと牛

著者:新美 南吉 読み手:入江 安希子 時間:48分27秒

   一

 牛ひきの和太郎さんは、たいへんよい牛をもっていると、みんながいっていました。だが、それはよぼよぼの年とった牛で、おしりの肉がこけて落ちて、あばら骨も数えられるほどでした。そして、から車をひいてさえ、じきに舌を出して、苦しそうにいきをするのでした。
「こんな牛の、どこがいいものか、和太はばかだ。こんなにならないまえに、売ってしまって、もっと若い、元気のいいのを買えばよかったんだ」
と、次郎左エ門さんはいうのでした。次郎左エ門さんは若いころ、東京にいて、新聞の配達夫をしたり、外国人の宣教師の家で下男をしたりして、さまざま苦労したすえ、りくつがすきで仕事がきらいになって村にもどったという人でありました。
 しかし、次郎左エ門さんがそういっても、和太郎さんのよぼよぼ牛は、和太郎さんにとってはたいそうよい牛でありました・・・

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