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芥川 龍之介

鬼ごつこ

読み手:齋藤 こまり(2022年)

鬼ごつこ

著者:芥川 龍之介 読み手:齋藤 こまり 時間:2分42秒

 彼は或町の裏に年下の彼女と鬼ごつこをしてゐた。まだあたりは明るいものの、丁度町角の街燈には瓦斯のともる時分だつた。
「ここまで来い。」
 彼は楽々と逃げながら、鬼になつて来る彼女を振りかへつた。彼女は彼を見つめたまま、一生懸命に追ひかけて来た。彼はその顔を眺めた時、妙に真剣な顔をしてゐるなと思つた。
 その顔は可也長い間、彼の心に残つてゐた。が、年月の流れるのにつれ、いつかすつかり消えてしまつた。
 それから二十年ばかりたつた後、彼は雪国の汽車の中に偶然、彼女とめぐり合つた・・・

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