牧野 富太郎 作 火の玉を見たこと読み手:福井 一恵(2011年) |
時は、明治十五、六年頃、私はまだ二十一、二才頃のときであったろうと思っているが、その時分にときどき、高知(土佐)から七里ほどの夜道を踏んで西方の郷里、佐川町へ帰ったことがあった。
かく夜中に歩いて帰ることは当時すこぶる興味を覚えていたので、ときどきこれを実行した。すなわちある時はひとり、またある時は二人、三人といっしょであった。
ある夏に、例のとおりひとりで高知から佐川に向かった。郷里からさほど遠くない加茂村のうちの字、長竹という在所に国道があって、そこが南向けに通じていた・・・