片山 廣子 作 花屋の窓読み手:アン荻野(2023年) |
暮れかかる山手の坂にあかり射して花屋の窓の黄菊しらぎく
この歌は、昭和十一年ごろ横浜の山手の坂で詠んだのであるが、そのときの花屋の花の色や路にさした電気の白い光も、すこしも顕れてゐない。何度か詠みなほしてみても駄目なので、そのまま投げてしまつた。しかし歌はともかく、秋のたそがれの坂の景色を私はその後も時々おもひ出してゐた。
まだ静かな世の中で、大森山王にゐた娘たち夫婦が私を横浜に遊びに誘つてくれた。遊びにといつても週間の日の午後四時ごろ出かけたのだから、ちよつとした夕食をするのが目的で、・・・