小川 未明 作 ある冬の晩のこと読み手:凧野 頓太(2023年) |
橋のそばに、一人のみすぼらしいふうをした女が、冷たい大地の上へむしろを敷いて、その上にすわり、粗末な三味線を抱えて唄をうたっていました。
あちらにともっている街燈の光が、わずかに、寒い風の吹く中を漂ってきて、この髪のほつれた、哀れな女を、闇のうちに、ほんのりと浮き出すように照らしているばかりなので、顔もはっきりとわからなかったが、どうやら女は両方の目とも見えなかったようです。
多くの人々は、いろいろの運命に支配されるのでした。だれも、自分の未来についてわからなければ、また、他人の生活についても、わかるものでありません・・・