津村 信夫 作 果物の木の在所読み手:黒田 留美子(2023年) |
信州の子供達や大人が首をながくして待つてゐた春は、永い間待つただけの甲斐があつて、これは又なんと美しい時でせう。
信州では、梅、桃、桜、杏、李といふやうな、春の花がいつときに咲き出すと言はれてゐます。勿論いつときとは言つても、多少の早いおそいはありませうが、まるで匂ひこぼれるやうな美しい花が、町の庭にも、野や山にも、相ついで、次々と咲き出すのです。
梅の花と言へば、暖かいところでは、二月の半ばにはもう咲くものです。それがどうでせう。この山国では、四月になつて、やつと咲くのです・・・