夏目 漱石 作 硝子戸の中 六~十読み手:上田 あゆみ(2023年) |
六
私はその女に前後四五回会った。
始めて訪ねられた時私は留守であった。取次のものが紹介状を持って来るように注意したら、彼女は別にそんなものを貰う所がないといって帰って行ったそうである。
それから一日ほど経って、女は手紙で直接に私の都合を聞き合せに来た。その手紙の封筒から、私は女がつい眼と鼻の間に住んでいる事を知った。私はすぐ返事を書いて面会日を指定してやった。
女は約束の時間を違えず来た。三つ柏の紋のついた派出な色の縮緬の羽織を着ているのが、一番先に私の眼に映った・・・