夏目 漱石 作 永日小品 クレイグ先生読み手:みきさん(2023年) |
クレイグ先生は燕のように四階の上に巣をくっている。舗石の端に立って見上げたって、窓さえ見えない。下からだんだんと昇って行くと、股の所が少し痛くなる時分に、ようやく先生の門前に出る。門と申しても、扉や屋根のある次第ではない。幅三尺足らずの黒い戸に真鍮の敲子がぶら下がっているだけである。しばらく門前で休息して、この敲子の下端をこつこつと戸板へぶつけると、内から開けてくれる。
開けてくれるものは、いつでも女である。近眼のせいか眼鏡をかけて、絶えず驚いている・・・