片山 廣子 作 茄子畑読み手:齋藤 こまり(2023年) |
はがきを出さうと思つて、畑道を通つて駅前のポストの方に歩いて行つた。まだこの辺は家が二三軒建つただけで以前のままの畑である。夕日が真紅く空をそめて、高井戸駅の方から上り電車が走つてくる音がする。いつも通るうら道なのだが、今日はどうしたはづみか五年前のある夕方を思ひ出してしまつた。
昭和二十一年ごろの初秋であつたらうか、茄子の畑の出来事である。まだ今のやうに物資が出そろはず、たべることのためにみんなが苦労してゐる時で、疎開先から帰つて来た人たちは殊にひどいやうであつた。その夕方ちやうどこの畑を通りかかると、・・・