宮沢 賢治 作 とっこべとら子読み手:土屋 由美子(2023年) |
おとら狐のはなしは、どなたもよくご存じでしょう。おとら狐にも、いろいろあったのでしょうか、私の知っているのは、「とっこべ、とら子」というのです。
「とっこべ」というのは名字でしょうか。「とら」というのは名前ですかね。そうすると、名字がさまざまで、名前がみんな「とら」という狐が、あちこちに住んでいたのでしょうか。
さて、むかし、とっこべとら子は大きな川の岸に住んでいて、夜、網打ちに行った人から魚を盗ったり、買物をして町から遅く帰る人から油揚げを取りかえしたり、実に始末におえないものだったそうです。
慾ふかのじいさんが、ある晩ひどく酔っぱらって、町から帰って来る途中、・・・