山川 方夫 作 非情な男読み手:野中 美木子(2023年) |
私は顔をあげた。やはり彼女だった。
窓ごしに彼女の眼が、哀願するように私をみつめている。
開けてくれというのだ。
黒い窓に、彼女は音をたてる。しだいに強く、執拗に、その音がつづいている。
彼女は身もだえをし、全身で私に合図している。
……だが、私には彼女を部屋に入れてやる気は毛頭ない。だんじてない。そんなことをしたら、かえって面倒なことになってしまうだけだ。
この深夜、ここまで単身でやってくるというのは、彼女にしたらたしかにたいへんな決意だっただろう。それはわかる。恐怖も躊躇もかなぐり捨て、彼女はむきだしの本能そのものに化し、ただ闇雲にそれに忠実になることに自分を賭け、・・・