海野 十三 作 第四次元の男読み手:二宮 正博(2024年) |
これからわたくしの述べようとする身の上話を、ばかばかしいと思う人は、即座に、後を読むのをやめてもらいたい。そして、この本の頁を、ぱらぱらとめくって、他の先生の傑作小説を読むのがいいであろう。銀座の人ごみの中で、縮れ毛の女の子にキッスされた話だの、たちまち長脇ざしを引っこぬいて十七人を叩き斬った話だのと、有りそうでその実有りもしない話に、こりゃ本当らしい話だと、うつつをぬかすような手合に、これからわたくしの述べようとする、無さそうでその実本当にある話を読んでもらっても、とても真の味はわからないであろうから。(もっとひどい言葉でいいたいところだが、冒頭だから、敢て遠慮をしておく)。
さて、もうこの行のあたりを読んでいてくださる読者は、十中八九、真にわたくしの気持に理解のある粒よりの高級読者だけが残っておられることと思い、・・・