片山 廣子 作 まどはしの四月読み手:アン荻野(2024年) |
その小説はエンチヤンテッド・エプリル(まどはしの四月)といふ題であつたとおぼえてゐる。大正のいつ頃だつたか、もう三十年も前に読んで、題までも殆ど忘れてゐたが、二三日前にふいと思ひ出した。ロンドンで出版されて当時めづらしいほどよく売れた大衆もので、作者の名も今はわすれた。
郊外に住む中流の家庭の主婦が街に買物に出たかへりに、自分の属してゐる婦人クラブに寄つてコーヒーを飲み、そこに散らばつてゐた新聞を読む。新聞の広告欄に「イタリヤの古城貸したし、一ヶ月間。家賃何々。委細は○○へ御書面を乞ふ」と珍らしい広告文であつた・・・