北大路 魯山人 作 海にふぐ山にわらび読み手:横山 宜夫(2024年) |
ふしぎなような話であるが、最高の美食はまったく味が分らぬ。しかし、そこに無量の魅力が潜んでいる。
日本の食品中で、なにが一番美味であるかと問う人があるなら、私は言下に答えて、それはふぐではあるまいか、と言いたい。東京でこそほとんどふぐを食う機会がないが、徳島、下関、出雲あたりに住んで、冬から早春の候にかけて、毎日のように、ふぐを食うことのできる人を私は真にうらやましく思う。
去る一月、私は陶土の採取のために九州の唐津へ、そして天然のすっぽんの研究のために柳河へ行った。その帰途、ちょうど下関の大吉でふぐを食うことができた・・・