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アントン・チェーホフ  鈴木 三重吉

てがみ

読み手:イトー ゲンヤ(2024年)

てがみ

著者:アントン・チェーホフ/鈴木 三重吉 訳 読み手:イトー ゲンヤ 時間:15分55秒

 ユウコフは年はまだやつと九つです。せんには、お母さんと一しよに、ゐなかの村のマカリッチさまといふ、だんなのうちにおいてもらつてゐました。お母さんはそのうちの女中になつて、はたらいてゐたのです。そのお母さんが死んでしまつたので、ユウコフもそのお家にゐられなくなり、人の世話で、三月まへから、この靴屋の店へ、奉公にはいつたのでした。
 こよひはクリスマスの晩です。ユウコフは親方や兄弟子たちが、教会からかへつてくるまでは、どんなにおそくまでも、ねむらないで、まつてゐなければならないのです。ユウコフは一人ぼつちで、さびしくてたまらないので、戸だなから、そつと親方のインキつぼをもちだして、さきのさゝくれたペンで、しわくちやの紙へてがみをかきだしました・・・

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