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竹久 夢二

博多人形

読み手:松岡 初子(2024年)

博多人形

著者:竹久 夢二 読み手:松岡 初子 時間:6分38秒

 お磯は、可愛い博多人形を持っていました。その人形は、黒い眼と薔薇色の頬を持った、それはそれは可愛らしい人形でありましたから、お磯はどの人形よりも可愛がっていました。どこへゆく時にも傍をはなしませんでした。夜寝る時でさえ、そっと傍へ寝かしてやるほどでした。
 ある日お磯は、牧場へ茅花を摘みにゆきました。やはりいつものように右の手には御気に入りの人形が抱っこされていました。
……つうばな つうばな
一枝折っては帯にさし
二枝折っては髪にさし……
 茅花が、両手に一ぱいになったとき、お磯は人形に言うのでした。
「あなたは好い児ね。あたしは、お手手が、こんなに一ぱいなんでしょう。ほうら、だからここへねんねして待ってて頂戴な。かあさんすぐ来ますからね。いいこと」・・・

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