岡本 かの子 作 紫式部の美的情緒と浄土教読み手:成 文佳(2024年) |
紫式部が晩年阿弥陀仏の信仰に依り安心立命を得て愈々修道に心掛けた様子は式部が、日記の終りに近い条で自ら告白して居るから疑いはない。しかし、私は源氏物語や家集の和歌を読んで、それ等に含まれている式部の美的情緒の一般にも浄土教的思想の影響が可なり在るように思えるからそれに就いて述べてみ度い。
当時の仏教は霊験仏法や儀礼仏法が盛んであったが、然し心の底から生死の問題に就て解脱を求める人も尠くなかった。そういう人々の為めには法華経の信仰と並んで来世救済の浄土教が持囃やされた・・・