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太宰 治

眉山

読み手:アン荻野(2024年)

眉山

著者:太宰 治 読み手:アン荻野 時間:26分11秒

 これは、れいの飲食店閉鎖の命令が、未だ発せられない前のお話である。
 新宿辺も、こんどの戦火で、ずいぶん焼けたけれども、それこそ、ごたぶんにもれず最も早く復興したのは、飲み食いをする家であった。帝都座の裏の若松屋という、バラックではないが急ごしらえの二階建の家も、その一つであった。
「若松屋も、眉山がいなけりゃいいんだけど。」
「イグザクトリイ。あいつは、うるさい。フウルというものだ。」
 そう言いながらも僕たちは、三日に一度はその若松屋に行き、そこの二階の六畳で、ぶっ倒れるまで飲み、そうして遂に雑魚寝という事になる。僕たちはその家では、特別にわがままが利いた・・・

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