閉じる

閉じる

楠山 正雄

しっぺい太郎

読み手:入江 安希子(2024年)

しっぺい太郎

著者:楠山 正雄 読み手:入江 安希子 時間:20分31秒

   一

 むかし、諸国のお寺を巡礼して歩く六部が、方々めぐりめぐって、美作国へまいりました。だんだん山深く入っていって、ある村の中に入りますと、何かお祝い事があるとみえて、方々でぺんたらこっこ、ぺんたらこっこ、もちをつく音がしていました。
 するとその中で一けん、相応にりっぱな構えをした家が、ここだけはきねの音もしず、ひっそりかんと静まりかえっていました。家の中からは、かすかにすすり泣きをする声さえ聞こえてきました。
 六部は「はてな。」と首をかしげながら、そのまま通りすぎていきますと、村はずれに一けんの茶店がありました。六部は茶店に休んで、お茶を飲みながら、おばあさんを相手にいろいろの話をしたついでに、・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.