大倉 燁子 作 鉄の処女読み手:谷岡 理香(2013年) |
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寒い日の午後だった。
私は河風に吹かれながら吾妻橋を渡って、雷門の方へ向って急ぎ足に歩いていた。と、突然後からコートの背中を突つくものがあるので、吃驚して振り返って 見ると、見知らない一人の青年が笑いながら立っていた。背の高い、細長い体に、厚ぼったい霜降りの外套を着て、後襟だけをツンと立てているが、うす紅色の 球の大きなロイド眼鏡をかけている故か眼の下の頬がほんのりと赤味をさしている・・・