岡本 かの子 作 愛よ愛読み手:岡田 百合子(2014年) |
この人のうえをおもうときにおもわず力が入る。この人とのくらしに必要なわずらわしき日常生活もいやな交際も覚束なきままにやってのけようとおもう。この人のためにはすこしの恥は涙を隠しても忍ぼうとおもう。
朝夕見なれしこの人、朝夕なにかしら眼新らしきものをその上に見出すこの人。世間ではこの人をおとなのなかのおとなのようにいう。けれどもわたしにはこ どもに見える。というわたしをこの人はまだこどものように見てなにかと覚束ながる。互に眼を瞠目って、よくぞこのうき世の荒浪に堪うるよと思う・・・