森 鴎外 作 サフラン読み手:岡田 百合子(2014年) |
名を聞いて人を知らぬと云うことが随分ある。人ばかりではない。すべての物にある。
私は子供の時から本が好だと云われた。少年の読む雑誌もなければ、巌谷小波君のお伽話もない時代に生れたので、お祖母さまがおよめ入の時に持って来られ たと云う百人一首やら、お祖父さまが義太夫を語られた時の記念に残っている浄瑠璃本やら、謡曲の筋書をした絵本やら、そんなものを有るに任せて見ていて、 凧と云うものを揚げない、独楽と云うものを廻さない・・・