堀 辰雄 作 姨捨読み手:阿蘇 美年子(2014年) |
わが心なぐさめかねつさらしなや
をばすて山にてる月をみて
よみ人しらず
一
上総の守だった父に伴なわれて、姉や継母などと一しょに東に下っていた少女が、京に帰って来たのは、まだ十三の秋だった。京には、昔気質の母が、三条の宮の西にある、父の古い屋形に、五年の間、ひとりで留守をしていた。
そこは京の中とは思えない位、深い木立に囲まれた、昼でもなんとなく薄暗いような処だった・・・