小林 多喜二 作 父帰る読み手:吉江 美也子(2015年) |
夫が豊多摩刑務所に入ってから、七八ヵ月ほどして赤ん坊が生れた。それでお産の間だけお君はメリヤス工場を休まなければならなかった。工場では共産党に 入っていた男の女房を一日も早く首にしたかったので、それがこの上もなくいゝ機会だった。――それでお君は首になってしまった。
お君は監獄の中にいる夫に、赤ん坊を見せてやるために、久し振りで面会に出掛けて行った。夫の顔は少し白くなっていたが大変元気だった。お君の首になったのを聞くと、編笠をテーブルに叩きつけて怒った・・・