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薄田 泣菫 作
読み手:入江 安希子(2015年)
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摂津の蘆屋に老人の夫婦者が住むでゐる。神戸に居る息子の仕送りで気楽に日を送つてゐるが、先日からふとした病気で媼さんが床に就いた。 「お爺さん、わたい貴方を見送つてから死にたいと思うてましたんやけど……」 媼さんは枕許に坐つてゐる爺さんの手を取つて泣いた。手は何方も皺くちやだつた。 「もう迚もあきまへんよつて、お先きへ遣つて貰ひまつさ。」・・・