土田 耕平 作 身代り読み手:岡田 百合子(2015年) |
五月雨がしよぼ/\と降りつゞいて、うすら寒い日の夕方、三郎さんは、学校からかへつて、庭向きの室でおさらひをしてゐますと、物置の方で、
「三郎や、ちよいと来てごらん。」といふお母さんの声がしました。障子をあけて見ますと、庭さきの物置小屋の軒下に、白手拭を姉さんかぶりにしたお母さんの姿が見えました。足もとに何か居ると見えて、お母さんは俯し目にして立つて居られます。
「お母さん、何?」と云ひますと、お母さんは三郎さんの方を一寸見て、黙つて手招きされました・・・