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薄田 泣菫 作
読み手:入江 安希子(2015年)
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平民にお腹の空く時があるやうに、大名にも咽喉の渇く事がある。話は古いが、むかし備前少将光政が咽喉が渇いた事があつた。丁度秋も末で、窓の外にはちんちろりんが意気な小唄を謡つてゐる頃であつた。 光政は二三日前鷹狩に出掛けた折、途で食つた蜜柑の事を思ひ出した。光政は繍眼児のやうに口を窄めて、立続けに三つばかし食つたやうに思つた・・・