芥川 龍之介 作 仙人読み手:三田 朱美(2016年) |
皆さん。
私は今大阪にいます、ですから大阪の話をしましょう。
昔、大阪の町へ奉公に来た男がありました。名は何と云ったかわかりません。ただ飯炊奉公に来た男ですから、権助とだけ伝わっています。
権助は口入れ屋の暖簾をくぐると、煙管を啣えていた番頭に、こう口の世話を頼みました。
「番頭さん。私は仙人になりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」
番頭は呆気にとられたように、しばらくは口も利かずにいました・・・