芥川 龍之介 作 文章と言葉と読み手:小川 幸香(2016年) |
文章
僕に「文章に凝りすぎる。さう凝るな」といふ友だちがある。僕は別段必要以上に文章に凝つた覚えはない。文章は何よりもはつきり書きたい。頭の中にあるものをはつきり文章に現したい。僕は只それだけを心がけてゐる。それだけでもペンを持つて見ると、滅多にすらすら行つたことはない。必ずごたごたした文章を書いてゐる。僕の文章上の苦心といふのは(もし苦心といひ得るとすれば)そこをはつきりさせるだけである・・・