河井 酔茗 作 春の詩集読み手:加納 恵美子(2017年) |
あなたの懐中にある小さな詩集を見せてください
かくさないで――。
それ一冊きりしかない若い時の詩集。
隠してゐるのは、あなたばかりではないが
をりをりは出して見せた方がよい。
さういふ詩集は
誰しも持つてゐます。
をさないでせう、まづいでせう、感傷的でせう
無分別で、あさはかで、つきつめてゐるでせう。
けれども歌はないでゐられない
淋しい自分が、なつかしく、かなしく、
人恋しく、うたも、涙も、一しよに湧き出た頃の詩集・・・