神西 清 作 化粧読み手:中村 昭代(2017年) |
これは昔ばなしである。――
二人はおさない頃から仲よしだつた。家は大和の国の片ほとり、貧しい部落に、今ならばさしづめ葭簀ばりの屋台で、かすとり焼酎でも商なふところか、日ごとに行商をして暮らしを立てる、隣どうしであつた。
幼い二人は背戸の井筒のほとりで、ままごとや竹馬あそびをしてゐた。遊びにあきると二人で井筒に寄り添つて丈くらべをした。年は少年が三つ上だつたが、背丈は少女の方が高かつた。少年はいつも負けて口惜しがつた。
井筒につける二人の爪の痕が、だんだん上へ伸びていつた。やがて井筒の丈では間に合はなくなつた。二人はあまり遊ばなくなつた。水を汲みに来てばつたり出会ふと、二人は頬を赤らめた・・・