宮沢 賢治 作 マグノリアの木読み手:かわなみ のりこ(2017年) |
霧がじめじめ降っていた。
諒安は、その霧の底をひとり、険しい山谷の、刻みを渉って行きました。
沓の底を半分踏み抜いてしまいながらそのいちばん高い処からいちばん暗い深いところへまたその谷の底から霧に吸いこまれた次の峯へと一生けんめい伝って行きました。
もしもほんの少しのはり合で霧を泳いで行くことができたら一つの峯から次の巌へずいぶん雑作もなく行けるのだが私はやっぱりこの意地悪い大きな彫刻の表面に沿ってけわしい処ではからだが燃えるようになり少しの平らなところではほっと息をつきながら地面を這わなければならないと諒安は思いました
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