野村 胡堂 作 銭形平次捕物控 瓢箪供養読み手:伊藤 和(2018年) |
一
「あ、八じゃねえか。朝から手前を捜していたぜ」
路地の跫音を聞くと、銭形平次は、家の中からこう声をかけました。
「へエ、八五郎には違えねえが、どうしてあっしと解ったんで?」
仮住居の門口に立ったガラッ八の八五郎は、あわてて弥蔵を抜くと、胡散な鼻のあたりを、ブルンと撫で廻すのでした。
「橋がかりは長えやな、バッタリバッタリ呂律の廻らねえような足取りで歩くのは、江戸中捜したって、八五郎の外にはねえ」
平次は春の陽溜りにとぐろを巻きながら、相変らず気楽なことを言っているのです・・・