新美 南吉 作 川読み手:入江 安希子(2018年) |
一
四人が川のふちまできたとき、いままでだまってついてくるようなふうだった薬屋の子の音次郎君が、ポケットから大きなかきをひとつとり出して、こういった。
「川の中にいちばん長くはいっていたものに、これやるよ」
それを聞いた三人は、べつだんおどろかなかった。だまりんぼの薬屋の音次郎君は、きみょうな少年で、ときどきくちをきると、そのときみなで話しあっていることとはまるでべつの、へんてこなことをいうのがくせだったからである。三人は、なによりも、その賞品に注意をむけた。
つややかな皮をうすくむくと、すぐ水分の多いきび色の果肉があらわれてきそうな、形のよいかきである。みなはそれを、百匁がきといっている。このへんでとれるかきのうちでは、いちばん大きいうまい種類である。音次郎君の家のひろい屋敷には、かきや、みかんや、ざくろなど、子どものほしがるくだものの木がたくさんある・・・