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薄田 泣菫

水仙の幻想

読み手:能島 昭子(2018年)

水仙の幻想

著者:薄田 泣菫 読み手:能島 昭子 時間:5分30秒

 すべての草木が冬枯れはてた後園の片隅に、水仙が五つ六つ花をつけてゐる。
 そのあるものは、肥り肉の球根がむつちりとした白い肌もあらはに、寒々と乾いた土の上に寝転んだまま、牙彫りの彫物のやうな円みと厚ぽつたさとをもつて、曲りなりに高々と花茎と葉とを持ち上げてゐる。
 白みを帯びた緑の、女の指のやうにしなやかに躍つてゐる葉のむらがりと、爪さきで軽く弾いたら、冴え切つた金属性の響でも立てさうな、金と銀との花の盞。
 その葉の面に、盞の底に、寒さに顫へる真冬の日かげと粉雪のかすかな溜息とが、溜つては消え、溜つては消えしてゐる。
 水仙は低く息づいてゐる・・・

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