与謝野 晶子 作 住吉祭読み手:中村 昭代(2018年) |
海辺の方ではもう地車の太鼓が鳴つて居る。横町を通る人の足音が常の十倍程もする。子供の声、甲高な女の声などがそれに交つて、朝湯に入つて居る私を早く早くと急き立てるやうに聞えた。此処に近い土蔵の入口に大番頭が立つて、
『真鍮の大の燭台を三組、中を五組、銅の燭台を三組、大大のおらんだの皿を三枚、錦手の皿を三十枚、ぎやまんの皿を百人前、青磁の茶碗を百人前、煙草盆を十個。』
と中に入つて居る手代に手びかへを読み聞かせて居る。
『畳二畳敷程の蛸がな、砂の上を這ふてましたのやらう。そうしたら傍に居た娘はんがびつくりしやはつてきやつと云やはりましたで。』・・・