薄田 泣菫 作 茶話 尻と腹読み手:入江 安希子(2018年) |
土筆ん坊が二人連で頭を擡げるやうに、偉い主人は屹度秀れた家来を連れて出るものなのだ。熊本の名君細川霊感公の家来に堀勝名が居たのも恰どそれである。
それまで熊本には罪人を取扱ふのに、死刑と追放と、この二つしか無かつたのを、勝名の考へで笞刑と徒刑とがその外に設けられる事になつた。笞刑は言ふ迄もなく、尻つ辺を叩くので、それに用ひられる笞が新しく買ひ込まれた。
だが、勝名はその笞で罪人の尻つ辺を幾つ叩いていいものか見当がつかなかつた。その時分熊本の城下には叩しつけていい尻はどつさり有つたかも知れないが、他人の身体では肝腎の痛さは判らなかつた・・・