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岡本 かの子

五月の朝の花

読み手:森河 恵奈(2018年)

五月の朝の花

著者:岡本 かの子 読み手:森河 恵奈 時間:3分19秒

 ものものしい桜が散った。
 だだっぴろく……うんと手足を空に延ばした春の桜が、しゃんら、しゃらしゃらとどこかへ飛んで行ってしまった。
 空がからっと一たん明るくなった。
 しんとした淋しさだ。
 だが、すこし我慢してじっと、その空を仰いでいた。
 じわじわと、どこの端からかその空がうるんみ始めましたよ、その空が、そして、空じゅうそのうるみが拡がって。
 その時、日本の五月の朝の中空には点々、点々、点々、点々。細長いかっちりした薄紫の鈴――桐の花です・・・

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