新美 南吉 作 うた時計読み手:西村 文江(2019年) |
二月のある日、野中のさびしい道を、十二、三の少年と、皮のかばんをかかえた三十四、五の男の人とが、同じ方へ歩いていった。
風がすこしもないあたたかい日で、もう霜がとけて道はぬれていた。
かれ草にかげをおとして遊んでいるからすが、ふたりのすがたにおどろいて、土手をむこうにこえるとき、黒い背中が、きらりと日の光を反射するのであった。
「坊、ひとりでどこへいくんだ」
男の人が少年に話しかけた。
少年はポケットにつっこんでいた手を、そのまま二、三ど、前後にゆすり、人なつこいえみをうかべた。
「町だよ」
これはへんにはずかしがったり、いやに人をおそれたりしない、すなおな子どもだなと、男の人は思ったようだった。
そこでふたりは、話しはじめた・・・