堀 辰雄 作 大和路・信濃路 斑雪読み手:阿蘇 美年子(2019年) |
「冬になって、雪がふったら、すぐ知らせて下さい。そのときはきっと、一人ででもやって来ますから。……」
その山の村にとうとう居残って冬を越すことになったK君夫妻に僕はその秋のなかばその村を立ち去るとき、そう云い残していった。
「……けさほどから急に雪がふりだしていますの。この分では大ぶ積りそうですので、主人が早くお知らせした方がいいと申しますから、これからこの手紙をもって雪のなかを郵便局まで一走りいたします」
――万里子さんからそう云ってよこしたのは、もう十二月も末近かった・・・