中原 中也 作 夜汽車の食堂読み手:伊藤 和(2019年) |
雪の野原の中に、一条のレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大きなお月様がポツカリと出てゐました。レールの片側には、真ッ黒に火で焦がされた、太い木杭が立ち並んでゐて、レールを慰めてゐるやうなのでありました。
そのレールの上を、今、円筒形の、途方もなく大きい列車が、まるで星に向つて放たれたロケットのやうに、遮二無二走つて行くのでした。
その列車の食堂は明るくて、その天井は白いロイドで貼つてあり、飴色の電燈は、カツカと明つて燈つてゐました。其処に僕はゐて、お魚フライにレモンの汁をしたたか掛けて、これから食べようとしてゐたのです・・・