薄田 泣菫 作 茶話 金ぴか革読み手:入江 安希子(2019年) |
実業家馬越恭平氏は、旧臘大連へ往つたが、用事が済むと毎日のやうに骨董屋猟りを始めた。何か知ら、掘出し物をして、好者仲間の度胆を抜かうといふ考へなのだ。
植民地には人間の贋物が多いやうに、骨董物にもいかさまな物が少くない。そんな間を掻き捜すやうにして馬越氏は二つ三つの掘出し物をした。
「これでまあ大連まで来ただけの効はあつたといふもんだ。それに値段が廉いや、矢張目が利くと損はしないよ。」
馬越氏は皺くちやな掌の甲で、その大事な眼を摩つて悦んだ。そして骨董屋の店前を出ようとして思はず立ち停つた・・・